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2009-01-01

昭和ラプソディ〜第三十一回 新年だというのに〜

お目出度う、と心から言い交わせる日を

 2009年1月1日。習慣で何となく「明けましてお目出度うございます」と口にはするのだが、いま私たちは本当に心から新しい年を祝える状態にあるのだろうか。年末のどさくさに紛れるように海上自衛隊の海外派遣を政府決定しようとする。街には職も住まいも失った人々の群れがある。その日の生活さえままならぬのに、この国の総理大臣なる人は連日のようにホテルの高級バーに通っている。日本の侵略戦争を自衛と言い切り、「国家への愛」を強弁する田母神は、一躍マスコミの寵児となり、この年末、各TV局に出ずっぱりだった。日本丸という私たちが乗り合わせた船は、一体どこへ向かおうとしているのだろうか?

 この連載でご紹介した小林一茶の句(第21回、11月17日掲載)に

  ともかくも あなたまかせの 年の暮れ

というのがある。よく知られた有名な句なのでご存知の方も多いだろう。そして今の私たちはまさにこの状態に置かれている。
 確かに制度上は私たち国民に主権があるのだが、その主権を行使する機会が与えられなければ、それは絵に描いた餅にすぎない。国民の意思とは別のところで国の最高指導者が決められ、そして次々と代わってゆく。残念ながら、そこに私たち庶民の悲鳴は届かない。

 社会がこれだけ混乱し、あちこちで悲鳴が上がっているというのに、こんな時こそ庶民の味方として最も動かなければならないはずの労働者の団体である「連合」は、何もする気は無いようだ。ひょっとすると、自分たちが今あるのは、苦しんでいる非正規労働者の犠牲の上にあぐらをかいてきた結果だ、という自覚さえも無いのかもしれない。
 人の痛みや苦しみに対して鈍感で無感覚となった労働組合など、何の役にもたたない。なぜ今、昭和の初期に書かれた小林多喜二の『蟹工船』が多くの人によって読まれているのか。「連合」と呼ばれる自称労働組合の幹部たちは想像したことも無いのではないか。

政治も社会も、
 ともかくも あなたまかせの 年の暮れ
状態が続いている。

 小林一茶は
 目出度さも ちう位也 おらが春
とも詠んだ。しかし「中位い」ならまだまし。いまや普通の、つまりは「中ぐらい」の市民生活を送ることさえ困難になり、最低限の暮らしを守るために、多くの人々は必死になっている。

 こんな状態が続くと、出てくるのが「強い国家待望論」。例の田母神論文はその空気を先取りした感じがしてならない。冒頭で触れたように、彼が各TV局にもてはやされているのもその影響だろうか。そう言えば、最近、「強い国家」を唱える連中のマスコミへの露出度が高まっているように思える。権力者やそれに追随する連中が国「家」を論じ始めるとロクなことはない。

 私は私とその家族、そしてその仲間たちが生きて暮らしているこの日本という国が好きだ。一部の人間が「自虐史観」として攻撃する日本の「負の歴史」をふくめて、この国の歴史を大切に思っているし、誇りを持っている。
 さらに、そこで語られている日本語という世界にも類の無い美しい言語を愛している。だからこそ、この連載で「日本語の旅」を続けている。
 しかし、その私の好きな日本という国は、「国家」という画一化された「統一意識の共同体」とは無関係だと思っている。私は日本列島という自然環境に住み、そこで一緒に暮らす人々によってつくられる緩やかな「協同体」である日本が好きなのであって、それはいわゆる日本国「家」と称されるものとは別だと思っている。

 昭和と呼ばれた時代の最大の悪夢は、「天皇を一家の中心」とする「日本という家」が産みだした「過剰な共同体意識」の悲劇だった。当時よく使われた「八紘一宇」という言葉が、そのことを端的に示している。田母神を祭り上げる連中の「国家」という言葉や「侵略戦争否定」、「愛国心」という発言には、「八紘一宇」的な発想が色濃くにじんでいる。そう言えば、彼らをバックで支えている森喜朗元総理は「日本は天皇を中心とした神の国」というアナクロニズムの発言で物議をかもした。
 
 新年を詠んだ小林一茶の句に、

  あら玉の 春早々の 悪日哉

という句と、

  世の中を ゆり直すらん 日の始

という二つの句がある。2009年、私たちはどちらの句を選ぼうとしているのだろう。

 最後に、昨年鬼籍に入られた奈良の歌人、前登志夫さんの和歌二首をご紹介する。

 こんなにも ごみ多き暮し
   俗物の あかしなりせば われもまたごみ

 人間の みな亡(ほろ)びたるその後も
       地球はゆるく 流轉をすらむ


 今、私たちに何が出来るのかを考えながら、この新年を送りたい。

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